速度太郎の日記

ことばクリエイター(自称)の松本秀文が作品や雑文を掲載いたします。

話題を持たない羊

「ねぇ、飢饉ってどんなものなの?」

「ん?」

「ききん」

「知らない」

 

そんな会話を夜の蛙たちがしている

深淵というものが存在するとすれば

そうだここはきっと深淵なのだろう

もう知り合いには誰にも会えないし

人間がこの世界に増えた理由を知る神様も

今日どこかで亡くなったと聞く

 

三文役者たちが川に溺れて死ぬ風景

岸を持てずにただ流れるしかない日々を

猫たちはただ耐えるように生きている

しかし不思議に自由で無垢な時間だ

ただ流れていくしかないから

ただ流れていくしかないから

 

風の中で死者と生者が口づけをする

それは仮に感情が最高に高まった状態を維持する装置としての

音楽が生まれた瞬間かもしれない

素晴らしい楽曲もすべては過去との対話だ

会えない人に会える方法が表現であってほしい

それは話題を持たない羊たちの祈りのような

 

「この世の果て」というドラマが昔あった

そしてあらゆる言葉は簡単に腐ってゆく

絶望や混乱はスーパーで消費されて

裏道で人殺しをしても事件にならない

底知れぬ豊富な思想はリサイクル業者の鳥でさえ相手にしない

「むずかしいことはもううんざりなんじゃ」

 

在宅で踊れ!

在宅で狂え!
在宅で歌え!

在宅で笑え!

在宅で愛せ!