獏の中
獏の中で
朝起きて
昨夜の夢を思い出している
食べられたのだ
夢の中では
僕が獏を食べている
水道管を伝う水の記憶
自分の思いのままに
輪郭を気にすることなく
生きていけたなら
都会の片隅
病気の猫の視線が
優しいものに拾われる場所
ひとは窓の外を眺めながら老いていく
「詩の圏外で生きることを肯定しよう」
僕の中で
かつての僕とこれからの僕が
獏として僕を食べている
幽霊のつくったスープを飲み干す
橋を渡ってゆく影は
記号の砂漠で駱駝の瘤を抱えて
列車の中で
死んだ恋人に手紙を書いて
言葉が永久に機能しない場所で休息する
お腹が減ったら
凍ったものをレンジであたためて
元に戻せないものを「時間」と名付けて
そっと笑う