速度太郎の日記

ことばクリエイター(自称)の松本秀文が作品や雑文を掲載いたします。

豚小屋

泥で町がつぶれた

髙爺は電信柱に刺された格好で死んだ

みんなからいつもけむたがられ

頑固を骨までにじませていた

髙爺よ

あなたはこの世をうらんでいたのだろうか

町のひとびとを殺したがっていたのだろうか

町とそこに生きるひとに

「神」とよばれるひとりの乞食が

泥を持ってきた

髙爺がひそかにあたためていた

「ことばによる世界の救済」を

乞食だけがきちんと見届けていた

役所の人間がゴミを見るような目で見ていた

ゴミ回収の仕事で暮らしていた髙爺よ

ゴミの山で暮らしていた髙爺よ

何度も死にかけて死ねなかった

生まれてきた意味を名もない草木にたずねて

なぐられて血をながした時に

なまぐさい魚がからだをおよぐ音をきいていた

海とは遠く

限られた部落で空さえ見る余裕なく生きて

背中には蜥蜴のような災いを込めていた

こころのなかをとぶとりに

こころのなかのいごこちをきく

まいごのまいごのこねこさん

あなたのおうちはどこですか?

ひとは理由もなく死ぬ

豚小屋から世界を見ていた男が死んだ

町そのものと共に

詩はもうだからこの世界から消えてもよいと思う