速度太郎の日記

ことばクリエイター(自称)の松本秀文が作品や雑文を掲載いたします。

宇宙の涯(赤い小屋のある風景

長い手紙を書いていた夏 この世界に存在していないあなたに対して 子供の頃に使っていた鉛筆で文字を綴った 青白い闇の中で蝋燭の貧しさに照らされて 死んだ者たちのことを自分なりに考えている まだ充分ではない だから死ぬことを許されていないのだろう 私…

感情を封じるための性器

感情を封じるため 感情を封じるため あなたに恋する(世界 ちいさないきものたちの歌が聞こえてきて コンビニで食料品を購入する時に泣いてしまう 暗い地下水道を通過する者たちが消えてゆく 未来の意味をうまく解釈できなかったから 黒板に刻んだ小心者たち…

泥棒たち

言葉を信じすぎることは罪だろうか ハンバーグにガーリックソースをかけながら ふと階段のことを想う そこには倒れた浮浪者が 田村隆一の詩集を抱えている 段の一つ一つが苦しそうな表情で 固く口を閉ざしている 「死ぬ理由など幾らでもあった」 盗んだもの…

獏の中

獏の中で 朝起きて 昨夜の夢を思い出している 食べられたのだ 夢の中では 僕が獏を食べている 水道管を伝う水の記憶 自分の思いのままに 輪郭を気にすることなく 生きていけたなら 都会の片隅 病気の猫の視線が 優しいものに拾われる場所 ひとは窓の外を眺め…