夕渦
6割くらい書き進めていたノート
そこに自分の醜さを加算する
マスクをつけた猫が通過して
人生の半分は既に失われていた
風が吹く
緑が波を真似て
彼岸への手招きをする動物に出会う
こともある
公園で幽霊の話をしている子供たちも
いつの間にか死んでしまった
かのような時刻
空に傷が緩やかに描かれて
淀んだ感情の底に
光あるいはそれを求める言葉の残滓
だから生きているのかもしれない
薄い血が流れ始めた場所から
天体の闇が心を突き刺すように
流れてくる
才能を信じることもできずに
表現は自らの傷も癒せない弱さを支えて
ノートの片隅でしゃがみ込み
金魚の繊細さが音として
豆腐屋の幻影を路上に浮かばせる
通り魔に殺された女性が起き上がって
私に「幸福」の中身について尋ねる
答えられようがなく
みじめさを抱えて
銀河の駅へと歩行を始める
星一つない潔癖さで世界が完成する
誰のものでもない