速度太郎の日記

ことばクリエイター(自称)の松本秀文が作品や雑文を掲載いたします。

夕渦

6割くらい書き進めていたノート

そこに自分の醜さを加算する

マスクをつけた猫が通過して

人生の半分は既に失われていた

風が吹く

緑が波を真似て

彼岸への手招きをする動物に出会う

こともある

公園で幽霊の話をしている子供たちも

いつの間にか死んでしまった

かのような時刻

空に傷が緩やかに描かれて

淀んだ感情の底に

光あるいはそれを求める言葉の残滓

だから生きているのかもしれない

薄い血が流れ始めた場所から

天体の闇が心を突き刺すように

流れてくる

才能を信じることもできずに

表現は自らの傷も癒せない弱さを支えて

ノートの片隅でしゃがみ込み

金魚の繊細さが音として

豆腐屋の幻影を路上に浮かばせる

通り魔に殺された女性が起き上がって

私に「幸福」の中身について尋ねる

答えられようがなく

みじめさを抱えて

銀河の駅へと歩行を始める

星一つない潔癖さで世界が完成する

誰のものでもない