MAIGO STATION
Once upon a time
世界と和解するために
詩を捨てた男がいた
巨大な工場で
青い血を流しながら
言葉は傷ついていた
そして
伝説が終わる頃
駅には知らない猫が増える
金魚売りのおじさんに
世界の秘密を打ち明けても
まるで変化はありゃしない
「透明」という言葉が
透明でなくなった時から
終わりは見え始めていたのだろう
孤独が安価で交換される時代
世界とはぐれるために
詩を書こうとしている少年もいる
「誰が誰を救うのか?」
宴のあと
くるぶしにふかくはいりこんだ
邪悪なもの
すぐさますてたいのだが
影が犬のふぐりをひきずり
空にながれる血の川を見上げて
猿の皮でひとがたはひとを真似る
歌の中で羽虫たちがむらがって
汚染された水
誰かが誰かの脳の中で助かる未来の話をしてみる
風が吹いている
意味もなく
猫は今日も鉄の土の中から生まれる
ひひひ
ふるえるほどのたいくつがあなたにくる
みえないうでにつつまれて
あなたは死ぬための切符をうけとるのです
うしろをみるなよ
詩人の彼氏 NO MORE POEM
濃厚に接触できない
濃厚なセックスができない
キスもダメだとママンに言われたから
舌を抜くような覚悟で
あたしは決めたんだ
「詩人の恋人を作ろう」
人生は出来損ないのバラエティ
バラバラなバラエティ
曖昧でモコモコしていて
ぬいぐるみのクマちゃんは
ペニスのようなものを突き出して
あたしの乳首を覗いている
わたがしよりもふわふわして
坂の上にそりゃ雲もあるでしょうよ
家で昔のドラマ「下駄物語」を見て
ざまあみやがれ
あたしの表現には誰も入ることができない
全てをあきらめた人から死んでゆけ
再現される現実があまりに脆いので
あまりに面白い前歯のない現実なので
歯医者は閉店して黒いダンスをして遊ぶ
ここはここではなくてここだから
どこですかここですかあそこですか
唾と汗まみれの性器を眺めながら暮らすぞ
価値が変わってしまったので
テレビをつけると昔の人が怒っていた
テレビを消してネット動画を見ると
半分の人はすっぴんで自殺しようとしている
死ぬなよ生きるなよ墓つくるなよ
存在の根元から完全に殺してやるからな
詩人の恋人は一切の接触をしない
一切の接触ができない詩人だから安全で
剃刀で切っても血が出るくらいの平凡
文学がイボのように鼻の横についてるぞ
くだらないことばかりやってもうすぐだね
一切のことはすべて許されるようなのであと少し
死刑宣告
方舟の中の名前のない部屋
本物の猫が言う
「言い訳をしたら死刑」
僕は「生まれてすみません」と言った
翌日僕は首を斬られた
話題を持たない羊
「ねぇ、飢饉ってどんなものなの?」
「ん?」
「ききん」
「知らない」
そんな会話を夜の蛙たちがしている
深淵というものが存在するとすれば
そうだここはきっと深淵なのだろう
もう知り合いには誰にも会えないし
人間がこの世界に増えた理由を知る神様も
今日どこかで亡くなったと聞く
三文役者たちが川に溺れて死ぬ風景
岸を持てずにただ流れるしかない日々を
猫たちはただ耐えるように生きている
しかし不思議に自由で無垢な時間だ
ただ流れていくしかないから
ただ流れていくしかないから
風の中で死者と生者が口づけをする
それは仮に感情が最高に高まった状態を維持する装置としての
音楽が生まれた瞬間かもしれない
素晴らしい楽曲もすべては過去との対話だ
会えない人に会える方法が表現であってほしい
それは話題を持たない羊たちの祈りのような
「この世の果て」というドラマが昔あった
そしてあらゆる言葉は簡単に腐ってゆく
絶望や混乱はスーパーで消費されて
裏道で人殺しをしても事件にならない
底知れぬ豊富な思想はリサイクル業者の鳥でさえ相手にしない
「むずかしいことはもううんざりなんじゃ」
在宅で踊れ!
在宅で狂え!
在宅で歌え!
在宅で笑え!
在宅で愛せ!
触れえぬもの
「生」のすべてを捧げても
触れえぬもの
それを人は探す
湿疹跡の皮膚を眺めて
星の言語を想像して
心と心の交換が不可能と気付く
「答えが欲しいようね」
季節の内部で崩壊した亀を連れて
遊園地で死んだふりをするような生活
そこに「恋」という文字は潜んでいたか
風が吹く
砂の中で
砂を噛んで
明日とは何かを知る
触れえぬものを召喚して
おはぎのような魂を抱く
あんこの中で死んでも構わない
きたない心が世界と同期して
「悔しいだろ」
水を求めて21世紀を跨いで
誰も知らない場所で花のふりをする
おめでとう