速度太郎の日記

ことばクリエイター(自称)の松本秀文が作品や雑文を掲載いたします。

猫の他界

某月某日

猫が死んだ

死んだ猫は詩を書いていた

だから死んだのかもしれない

頭蓋骨から脳がはみ出して

全身は血のスープに浮かんでいる

都会が悪いのか

浮浪者が読み漁る古い詩集の色褪せた文字

もういないもういないもういない

いつの間に生まれていたのか

遠くでピストルが鳴る

世界は凍る

「一匹」という全体が月として街をこわす

復讐があふれ

公園では黒い布をかぶった猫たちがまるで

幽霊のように並んでいる

月から腕がのびて街は血の洪水となる

その時

いきものとしてお前は地面に立つ

友達の生首や親の肉片を踏みつけたとしても

辿らねばならない道があった

詩とは運命である

書きたくもないものを書かねばならない時

猫の死体は起き上がり

月光の中で

自らの遺言を読み上げるだろう

ただしく生きることができない

あらゆるいきものへの追悼として

惑星に落下する隕石が

地上をほろぼす束の間のいじわるな世界で

死んだ猫は素直に煙草を吸う

マンホールの上は少しだけつめたいからいやだ