速度太郎の日記

ことばクリエイター(自称)の松本秀文が作品や雑文を掲載いたします。

「私」の制作

「私はあなたではなくあなたでなくもない」

 

展示されている「私」を見る私

手のひらに「私」がひらいている

その開き方は不必要な要素が多く

夜をうまく過ごすことには適していない

空気がにごっている

 

「コロナ」という文字であなたは

あなた自身がどのように生きているのか

それを以前よりも鮮明に考える機会を得た

それは「私」の制作を行う上で重要な羊である

羊は誰にも似ていなくてあなたである

 

草の上で仕事をしていた

未来の軸なんて知らない

目の前の土を見ながら

青空との対比をこの世界の全てと考えて

季節を生き抜く術を肌に焼き付けた

 

あらゆるもの

あらゆるもの

あらゆるもの

韻と石

その中にあるもの

clearになる前の町の風景

ぼやけていたものの

輪郭が急にはっきりすると

幽霊の唇から発される言葉がある

「この地上に難解なものなど存在しない」

ただ在るということを

からだが理解するまで

死んだ後でも

まだそんなにアホみたいに

わからない者がいると聞く

白いチョークで死んだひとのかたちを描いている

児童もいる

かつて炭鉱で栄えた町だ

ペストで滅びてすみません

ぎゃはははははははははははは

「澄みません」とつぶやく幽霊の中に

雪女が隠れていて乳に触れる男は死ぬ

何度も繰り返し死ぬので棺桶屋は眠れない

さみしい町だ

化物退治に向かったひとたちが

ひとのかたちをしていて笑えた

「もう、きっちり妖怪なんだから」

笑う枕の牙で性交の残像を見せるのが

ポルノの町だ

ダンサーたちはトラックで死の山に向かい

鋼鉄の広辞苑で脳がつぶれるまで叩かれた

つまり死んだのです

とんかつソース398円

「南の島に行きたいのです」

ガラスの真理が青空を見ている

空気の中には詩よりも尊いウイルスの宝庫

うまくやってくれ

風の又三郎はくたびれた尻を抱く

明日の午後には惑星は

灰かな


夕渦

6割くらい書き進めていたノート

そこに自分の醜さを加算する

マスクをつけた猫が通過して

人生の半分は既に失われていた

風が吹く

緑が波を真似て

彼岸への手招きをする動物に出会う

こともある

公園で幽霊の話をしている子供たちも

いつの間にか死んでしまった

かのような時刻

空に傷が緩やかに描かれて

淀んだ感情の底に

光あるいはそれを求める言葉の残滓

だから生きているのかもしれない

薄い血が流れ始めた場所から

天体の闇が心を突き刺すように

流れてくる

才能を信じることもできずに

表現は自らの傷も癒せない弱さを支えて

ノートの片隅でしゃがみ込み

金魚の繊細さが音として

豆腐屋の幻影を路上に浮かばせる

通り魔に殺された女性が起き上がって

私に「幸福」の中身について尋ねる

答えられようがなく

みじめさを抱えて

銀河の駅へと歩行を始める

星一つない潔癖さで世界が完成する

誰のものでもない

爆破の恋

おいしい焼肉屋さんで

猫たちが談笑している

俺は奴隷として雇われている

猫たちに飲み物を聞く

ハイボールが好きみたいだ

「猫なのに素敵だなあ」

猫たちは俺の胸倉をつかんで

俺たちを「猫のくせに」とてめえは考えた

「お前はコンクリート漬けで今日死ぬんだ」

あ、そうだ今日は原爆が落ちた日やなあ

原民喜のことを考えるだけで日が暮れて

まかないと云えば缶詰だった

もうこれ以上恥ずかしく生きたくない

長澤まさみのからだをずっと舐めていたい

舐めるように見ているだけで死ぬから

許してほしい

明日には骨だから肉を食べさせてね

タンにも種類があるらしいから勉強やね

ミニオンって部位食べれたら最高だけど

意味ばかり焼いている客を殺したい

母も死んだから家族いなくて

もうどうでもいいし

猫のくせに高級肉食べてんじゃねえよ

ギロチン

ちんちんとまんこが歩いている

人格もすべて否定してあなたたちは部位です

「ただの猫です」

脳に放射能広がらされて黒い袋の中で死ぬ

ドカンドカン

恋したいよ

恋したいよ

翼のない天使が闇金融に湖をつくりに行く

案山子を生産する会社の新入社員の首吊り

はいよ

はいよ

まだまだ死が足りないから

ツェランもこれからも死なせろ

ペニスが腐るまで


豚小屋

泥で町がつぶれた

髙爺は電信柱に刺された格好で死んだ

みんなからいつもけむたがられ

頑固を骨までにじませていた

髙爺よ

あなたはこの世をうらんでいたのだろうか

町のひとびとを殺したがっていたのだろうか

町とそこに生きるひとに

「神」とよばれるひとりの乞食が

泥を持ってきた

髙爺がひそかにあたためていた

「ことばによる世界の救済」を

乞食だけがきちんと見届けていた

役所の人間がゴミを見るような目で見ていた

ゴミ回収の仕事で暮らしていた髙爺よ

ゴミの山で暮らしていた髙爺よ

何度も死にかけて死ねなかった

生まれてきた意味を名もない草木にたずねて

なぐられて血をながした時に

なまぐさい魚がからだをおよぐ音をきいていた

海とは遠く

限られた部落で空さえ見る余裕なく生きて

背中には蜥蜴のような災いを込めていた

こころのなかをとぶとりに

こころのなかのいごこちをきく

まいごのまいごのこねこさん

あなたのおうちはどこですか?

ひとは理由もなく死ぬ

豚小屋から世界を見ていた男が死んだ

町そのものと共に

詩はもうだからこの世界から消えてもよいと思う


雨猫

あめねこ

あめとともに

おとはあめ

あめのせんりつ

ぽたんぽたん


あめねこ

あめとともに

あめはおと

せんりつのあめ

ぽろんぽろん


ひからびて

しんだゆうれい

ねことなりて

まちをつつみ

あめにとかして


きみょうなおと

きみのわるい

おと

あめ

ねこ